和の國ブログをご覧の皆さま、こんにちは。
「熊本ゆかりの染織作家展」実行委員の安達絵里子です。
長月9月に入り、秋の気配を感じる今日この頃です。

日本列島も、個人的にも、いろんなことがあった8月。
「熊本ゆかり便り」もステキなことがありました!
と、申しますのは「進化する織のアーティスト」吉田美保子さんが熊本に帰省され、お会いすることができたのです。

なんとステキなきもの姿でしょう!
自作をお召しになった吉田美保子さんです。

ご両親が金婚式を迎えられ、その祝賀会と記念撮影でお召しになったときの写真です。
盛夏ではありますが、自作に身を包んだ吉田さんのきもの姿こそが、ご両親さまには何よりのプレゼントになったのではないでしょうか。

きものは「シャイニング・フィールド」。
風や光を感じるようにとイメージした作品だそうで、ひとえで着られるよう織り目を詰めてしっかり織ったそうです。

帯は「サワーオレンジ」。
平織と綾織を併用して布目を変化づけた、シンプルな格子模様の9寸帯です。
「第4回熊本ゆかりの染織作家展」に出品された「すっぱいみかん」と同じシリーズです。

装いのポイントになっている帯あげは、この「すっぱい柑橘系コーディネート」のためにご自身で染めたとか。さすが染織家!
帯締めは柑橘系の元気なビタミンカラーの黄色。
長襦袢も「洗える絹」を用いて、ご自身で染めたそうです。
洗練されたフル・コーディネートが、うらやましいくらいによくお似合いです。

お聞きしてみますと、思い切って自作を自分のものにしたのは、今年の5月に濟々黌高校の東京同窓会幹事を務めたことがきっかけのひとつだったそうです。
そうか、帯締めの黄色は濟々黌カラーでもありましたね!
もともと、ひとえのきものを欲しいと思っていらしたそうですが、なかなか自分のために作る余裕がなかった吉田さん、手持ちの反物から選ぶことにしました。

それがこの「シャイニング・フィールド」で、織り上げた丈が短めで商品として売りにくいものだったとのこと。
通常、着尺を織るときには3反分の経糸を織機に掛けるのですが、計算ミスがあったか、3反目の本作の丈が足りなくなってしまったのです。

そこで吉田さんは旧知の仕立て士さんに相談しました。
すると「大丈夫」との返事。
結局吉田さんが手織りした別布を、着てしまえば隠れてしまう下前の衿先や下前衽の腰部分に配して、じゅうぶんにおはしょりを取れる着やすいきものを仕立ててくれたそうです。
「助けられた」と実感した吉田さんは、改めて仕立ての技術や知恵に思いを深くしたと語っていらっしゃいました。

さて、初おろしの同窓会は、実に600人近くが集まる大規模なものでしたが、男性のきもの姿が2人いらしたほか、女性のきもの姿は吉田さんひとりだったとか。
吉田さんのきもの姿は、多くの方に喜ばれ、機動力が必要な幹事の役目も他の方がカバーしてくださったうえ「美保子さんがきもの姿で良かった」と歓迎されたそうです。

見ているだけでもステキなきものですが、同窓会の思い出や家族の思い出が書き加えられ、いっそう愛着深いものになったことでしょう。

「やはり何かのときは、きものね!」と実感された吉田さん。
「きものを誂えるには『勢いと衝動』がいる、と身をもって分かりました」と語ります。
「そんなふうに思ってもらえるような作品を作りたい」とも。

私がお目にかかったときは、手入れの行き届いた藍染の絞りをゆかた風にお召しで、こちらも写真に撮っておけばよかったと思うほどステキでした。

そんな吉田さんが現在、本格的な誂え制作のONLYONLYのほか、力を入れているのは、ざっくりと手ごたえのある八寸帯だそうです。
扱いにくい「きびそ糸」(蚕が繭を作るときに吐き出す最初の糸。素朴な風合いが魅力)を経糸に用い、「糸の味わい」を堪能できる帯を探求中です。

その試作品を見せていただいたところ、ふんわりと優しい雰囲気でありながら、素材の持つ確固とした個性のある織り味で、何とも魅力的。
熊本滞在中に和の國で國さんにも見ていただき、背中を押すように励まされたそうです。

次回、2015年1月3日(土)~6日(火)に予定しております第5回熊本ゆかりの染織作家展では、吉田さん渾身の八寸帯が並ぶことでしょう。
乞うご期待!!!です。
私も楽しみにしています!

今月もどうもありがとうございました。

熊本ゆかりの染織作家展実行委員 安達絵里子