和の國ブログをご覧の皆さま、こんにちは。
「熊本ゆかりの染織作家展」実行委員の安達絵里子です。

卯月4月、スーパーへ足を運びますと、私がときめくのは、柑橘類の豊富さです。
ミカンは終わりつつある一方で、ポンカン、ネーブル、はっさく、晩白柚、パール柑、はるか、スイートスプリング、晩柑、甘夏などなど、薄いレモン色からこっくりとしたオレンジまで色のグラデーションが果物売り場を彩っています。
私はもともと柑橘類が好きではありましたが、10年前に熊本に移り住んでから、いっそう柑橘類が好きになり、また他県の知人に送りつけて鼻高々の熊本自慢をするようになりました。

すみません、「きもの」のブログなのに、ついつい熱が入ってしまいます。
いや、これも以下に続く文章の前置きです!

恒例の「第4回熊本ゆかりの染織作家展」に出品された作品をご紹介するコーナー、今月は吉田美保子さんの作品にスポットを当てます。
現在神奈川県で染織をされている吉田さんは熊本から離れて何年も経ちますが、「やっぱり吉田さんも熊本の人よね」と思われるのが、この作品です。


吉田美保子・作 「みかんの純心」着尺 ¥478,000(仕立て代・消費税込み)

無限の包容力をもつ優しい色に、心惹かれる紬織物です。
題して「みかんの純心」
「じゅんしん」といえば「純真」で、タイトルの「純心」は吉田さんの造語です。
(校名ではすでに存在するようですが)
純粋な心――鮮やかなビタミンカラーではなく、無防備なまでの素直さ、実直な精神、ゆるゆるとした心地よさ……。
このきものから感じられる印象は、そのまま熊本人気質にあてはまる気さえします。

吉田さんによれば、本作は「めちゃくちゃいい糸」を使った自信作なのだとか。
経糸に使われているのは、貴重な群馬県産、無撚りの座繰糸。
柔らかく、ツヤと張りがあり、結城紬のようなほっこりとした糸に、極細の生糸が一本絡めてあります。
和の國でも人気が高い、士乎路紬のような糸質のようです。

遠目に見ると無地のようですが、手元に近づけてみると無数の色が経緯に織り込まれています。
しっかりとした地風なのでひとえ仕立てもおススメとのこと。

どこにでもありそうに思われるシンプルさがありながら、でも探してもなかなか見つからないと思われる、作家ならではの感性が生きた穏やかな色目。
染め帯から礼装用ではない織り帯まで、シーンに応じて帯合わせも楽しめそうです。
「こんなきものに身を包まれたら、私の心も浄化されそう……」とうっとりしています。

さて、お次は帯。

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吉田美保子・作「サワーオレンジ」九寸帯 ¥198,000(仕立て代、消費税込み)

なんとさわやかな帯でしょう。
下に合わせてあるきもの地も、吉田さんの作品「レモンフィールド」です。
吉田さんから「サワーオレンジ」について、以下の詩のようなコメントをいただいております。

………
きれいな弾けるような柑橘系の色をたくさんつかって、いきいきとした帯を織りたかった。
真っ直ぐ、凛とした経縞に、キュートな緯縞を会わせる。
ところどころに綾織りを入れているので、そこは緯糸がしっかり目立ち、アクセントづけている。
ちょうど今くらいの季節から初夏あたりに、すっぱいみかんをかじる感じ。
目が覚める。
………

使用されている糸は、水谷ルリ子さんという方が桑や蚕から育てて座繰りされたものや、沖縄の座繰り糸など、つるりとした感触のものを数種類取り揃えたそうです。
袷の季節はもちろん、ひとえの季節にもOKの質感です。
この帯を織っている写真は「これ」。
吉田さんのサイトの「はじめまして」に掲載されているものです。
こんなふうに慈しんで織られているのですねえ。

実は、本作は「第4回熊本ゆかりの染織作家展」に出品されたものではなく、熊本では初お目見えの帯です。
元々掲載を予定していた帯が、めでたく嫁入りしたので、吉田さんに急きょ写真での出品をお願いしたのです。
吉田さんから違う角度で撮影した写真もいただきましたので、それもご紹介しましょう。

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吉田さんのコメントにもあったように、織物は経糸と緯糸が出会い、交差して成り立っていることを改めて実感します。
選び抜かれた糸と色が格子風に織り成されて、ハーモニーを奏でているかのようです。

さりげないようでいて、しっかりした存在感を備える帯。
和の國好みの、地色が濃く無地場が多い大島紬にも合わせたい!
などと夢想しておりますが、皆さまのお手持ちのおきものにもきっと合うものがあるのではないでしょうか。

今回ご紹介しました「みかんの純心」「サワーオレンジ」は、ちょうど「みかんシリーズ」です。
金峰山のみかん畑を見て育った吉田さんならではの色彩感覚といえますが、アーティストの心と手わざを透過して、普遍的な色彩美を謳う作品にまで昇華されているように思います。
さすが吉田さん。
熊本がアーティストの色彩感覚を育んだと思うと、私はうれしいです。
今回のきものと帯は、その決定的な証拠作品です!(私が勝手に認定)

ちなみに吉田美保子さんは、「only only」という、糸選びからデザイン起こし、製織まで、すべて着る人と二人三脚で作品を作り上げることもされています。
最近は「ふふさま」という方の帯をステキに制作されましたが、そのようすは吉田さんのブログで詳しく紹介されていますので、こちらもどうぞご覧くださいませ。
ページ左側のカテゴリー「only only注文制作」からお入りください。

「only only」は、次回の「熊本ゆかりの染織作家展」を待たずとも、いつでも受付可能です。
関心を抱かれた方は、ぜひ和の國までお声がけください。
「きもの生活20年の國さん」による、プロ視点のアドバイスを得ながら、失敗なく唯一無二の「私だけの宝物」を創作できます。

長くなりましたが、今月もご覧くださいまして、ありがとうございました。

熊本ゆかりの染織作家展実行委員 安達絵里子