和の國ブログをご覧の皆さま、こんにちは。
月に一度の乱入をさせていただいている「熊本ゆかりの染織作家展」実行委員の安達絵里子です。
今年はいつまでも寒かったのですが、熊本では桜が盛りとなりました。
昨年末に行われた「第2回熊本ゆかりの染織作家展」以来、ひそかに待ち続けた桜の季節です。

そうです。なにを隠そう、その時に、私は溝口あけみさんの型絵染作品「桜」をお頒けいただいておりました。
和の國ブログ(2011年12月19日)で紹介させていただきましたので、覚えている方もいらっしゃるかもしれません。

溝口さんといえば、大胆さもありながら繊細な優しさのある、豊かで洗練された色彩が魅力です。しかしこの作品は墨色のモノトーン。
「墨染めの桜」という印象です。あえてモノトーンにした理由は、溝口さんご本人によると、生地との対話によるものだということでした。
和の國でもお馴染みの芝崎重一さんが織られた白生地です。
そんな崇高なモノトーンの美しさを、私が着られるのか不安はありましたが、惚れてしまった者の弱みで、我が物としてしまいました。

初おろしは先日の3月27日。和の國さんのブログ(2012年3月27日)でもご紹介くださったように、「きもの友達」になっていただくことを志願している、美意識の高い先生を福岡からお迎えした日でありました。
桜がほころび始めた頃のこと。まだ寒い感じがしたのと、もうすぐ季節が変わって着られなくなる名残りの気持ちから、墨色の結城紬に合わせました。明るい地色のきものも考えられましたが、落ち着いた感じにしたかったので、モノトーンの取り合わせにしました。

帯締めは、白に薄ピンクと黄緑色を段ぼかしで組んだ配色で、わずかに春の彩りを加えました。製作元の「道明」さんが奥ゆかしい別の銘を付けていましたが、私は「柳桜」と呼んでいます。
この帯締めを見ていると「見わたせば柳桜をこきまぜて 都ぞ春の錦なりける」という和歌が思い出され、春ならではの美しさ、生命力を帯締め一本で味わえるからで、春になるとこればかり締めています。

帯あげは、クリーム色の無地。きものに雪輪が織り出されているので、きものの「雪」、帯の「桜」とくれば、安易な発想ながらも「雪月花」となるよう「月」が欲しくなります。
月の色に見立てて、黄みのある帯あげを選びました。きものは、こんな「うふふ」の楽しみ、物語性を織り込めるところが面白いですね。
写真は着用後に静物撮影したものです。

さて、溝口さんの「桜」の帯。ひとことでいえば「感動しました」。
型絵染作家の方は、全通で柄付けをなさいます。つまり着てしまえば見えない部分まで桜が染められているのです。
「商品」としては、前とお太鼓部分にあれば、充分魅力的な帯なのですが、帯丈いっぱいに柄が染められているとは、なんと贅沢。

しかし、つくづくと見ていて分かりました。
作家の「全通」にはリズムがあります。
染めの段階ではおそらく苦労もあったのでしょうが、仕上がってしまえば、リズムが感じられる楽しい帯になります。
帯の端から端まで、作家が心をこめて染めた帯は、その分だけ「思い」が宿り、それを身に着けると、頼りない我が身が支えられているような気持ちになります。

ありがとう、溝口さん。溝口さんに支えられ、この帯の美しさに支えられ、私の心まで美しく染められるようでした。

ところで、私が「墨染めの桜」と呼んでいた桜の帯。
締めてみれば、モノトーンながら華やぎがあり、愛称変更を考えるまでになりました。
同行した福岡の先生も、「作品として見るより、締めているほうがはるかに素敵。作家の方は、それを計算に入れてデザインされるのですね」と感心しきりでした。

モノトーンながら、溝口さんならではの豊かな色彩を感じさせる……。
「墨に百彩あり」―― 水墨画で言われる境地を思い出しました。
やはり、着てみてこそ分かることって、あるのですねえ。

今回も、安達の個人的「熊本ゆかり」体験話で失礼いたしました。
第3回の「熊本ゆかりの染織作家展」に向けて、少しずつ動き出そうとしています。
来月は、そのご報告とお知らせをしたいと思います。
どうもありがとうございました。
 熊本ゆかりの染織作家展 実行委員 安達絵里子