和の國ブログをご覧の皆さま、こんにちは。
「熊本ゆかりの染織作家展」実行委員の安達絵里子です。
このたび熊本は大きな地震に遭い、思いもかけぬ事態になっております。
熊本城の櫓がわずかな石で麗姿を保とうとしているように、熊本に住む私たちは苦境にあって、それぞれの立場でくちびるを噛みしめ、前を向こうとしています。
県外の方からは、あたたかいお見舞いのお言葉や支援の物資をたまわり、大きな励みになっています。
また、熊本市東区の我が家の近所には、九州各県や広島、愛媛、徳島、大阪、東京、神奈川、宮城、北海道など、日本中の災害支援車が走っていて、どの車にも頭を深々と下げたい思いがしています。
私個人は幸いにも家族と家屋いずれも大きな被害を免がれ、近くの避難所へお手伝いしに行く以外は木綿きものに半幅帯、割烹着という「いつもの自分」でいられることに感謝する日々です。
お気に入りのおしゃれ着や晴れやかなきものは、まだとても着られませんが、普段着であっても、きもののもつあたたかさ、優しさ、頼もしさを改めて感じています。
さて、2か月に1度の「熊本ゆかり便り」を「いつものように」お届けしたいと思います。
まず、熊本ゆかりの染織作家さんたちは、皆さま今回の地震による後片付けに追われながらも、お怪我もなく、染織の仕事場のダメージも少なく、仕事の再開を目指していらっしゃいます。
それを後押ししてくれるような、うれしいニュースもあります。
堀絹子さんは、今年も国展に入選されたばかりでなく、これまでの仕事が評価され、準会員に推挙されました。
溝口あけみさんは、西部工芸展入選。
介護のため仕事を休止されていた友禅染の島崎澄子さんは、一部仕事を再開し西部工芸展課題の部に出品し、展示される予定です。
今年の西部工芸展は、熊本の方が染織作品で複数入選し、熊本で展覧が行われる6月が楽しみになってきました。
さて、今回は進化する織りのアーティスト・吉田美保子さんのタブロー作品をご紹介しましょう。
写真は、前回の「熊本ゆかりの染織作家展第5回」に出品された吉田さんのタブロー作品「Pink Crossing」を飾ったNさま邸の玄関口です。
漆喰の白壁に焦げ茶のガラス格子を背景として、タブローが静かな佇まいを見せる、素敵な空間です。
昨年転居されたNさまは「大好きな吉田さんのきものや帯を毎年購入できないけれど、新しく住む家で日常的に吉田さんの作品を目にしたい」との思いで、ご購入くださったそうです。
確かに!
小物は身近に染織を堪能できる一手段でもあります。
作品にもっと近づいてみましょう。
淡いピンクをベースに、ピンク濃淡や相性が良い濃グレーが織り入れられ、上部のイエローがほどよいアクセントとなっていて、織りの醍醐味を感じます。
この織物は、これまでに試し織りなどで織りためた裂の中から、吉田さん自身が選び、切り取ってタブローに仕上げたものです。
織物の端に見られる「耳」の表情も、試し織りならではのおおらかな味わいがあります。
洗練された感覚で調和している台紙もすべて吉田さんの美意識で選ばれたもの。
白地部分は、キャンバス下地に用いられるジェッソに砂粒のようなものを混ぜ、吉田さん自ら塗ったものだそうです。
そもそも吉田さんは美大で抽象芸術を志していたといいます。
紆余曲折を経て、経緯の糸で構成される織り世界に入られましたが、吉田さんにとって、タブロー作品は、初心に戻るような芸術活動といえるのかもしれません。
そのこだわりのひとつを、上の写真に見ることができます。
立体的に浮かんで見えるよう、裏打ちした裂作品を白地の上に細工をしているのです。
まさに吉田さんの美意識がつまった1点もののタブローです。
このNさまのタブローは220mm四方の額で、税込み19,440円だったそうです。
裂の大きさや、額などの材料によって価格が変わり、だいたい8,000円から30,000円くらいで手に入れることができます。
お気に入りをみつけて室内に飾ったり、きものが好きな方へのプレゼントにしたりできそうです。
お問い合わせは、お気軽に和の國までどうぞ!
完全誂え制作の「ONLYONLY」でもご多忙の吉田美保子さんですが、今回の大地震のために4月下旬の数日間、熊本にしばらく戻ってきてくださいました。
ご実家やお友達の後片付けを手伝い、また疲れを癒してもらうよう温熱療法の道具やアロマオイルなども持って来られたそうです。
そんな吉田さんの心遣いが、作品にも表れているように思います。
「熊本ゆかり便り」今月もご覧くださり、ありがとうございました。
次回は7月にお届けいたします。
熊本ゆかりの染織作家展実行委員 安達絵里子