砂色の小千谷ちぢみに、今年初めて袖を通した。慣れない色合いなので帯は、鉄紺の本麻の角帯を締め、紗の袖なし羽織を身につけた。この着物との再会は、数年ぶりだろうか。昨今のファスティング(断食)により浮き輪が縮み、以前に作っていた着物がきれるようになったからだ。ここ数年は、夏冬の入れ替えの時には出してはみるが、またそのままタンスの奥に眠る状態が続いていた。 また、特にこの砂色の小千谷ちぢみには、思い入れが深い。それは残された三銃士の一枚だからだ。あとの二枚は、お役御免で「本麻の長じゅばん」として生まれ変わっている。この着物を作ったのは、平成5年の夏だからかれこれ20年前。もう数回洗張りをして表裏をやり変えたりしているが、何も分からずに「きもの宣言」し、着物を着てお客様廻りをしていた頃が懐かしく思い出される。当時はタバコを吸っていたので、当時は上前が焦げたが、仕立て直しでやり変えた、下前に残るタバコの焼け跡も懐かしい。着物と共に、当時のさまざまな記憶を鮮明に呼び戻してくれる。「形見分け」とは、まさに着物を身内で分配することを言ったりするが、着物とは、霊力をもった護身的な衣服なのであろうか・・・。