またお昼からは、双璧な出会いが待っていた。眼福の後は、福耳だ。今日は、「真和中学高校創立50周年」のお目出度い日だ。そのお祝いに熊本県立劇場コンサートホールで卒業生や在校生を中心に記念演奏会が開かれた。私は地元の菊池北中学~菊池高校出身なので縁もゆかりもない。しかし、中川大という一人の天才ピアニストがこの場に誘ってくれた。氏はバイオリンの伴奏をするという。伴奏=楽曲の主旋律や主声部を支え引き立てるために、他の楽器で補助的に演奏すること。また、その演奏。…と広辞苑には書かれているが、氏は四角四面の伴奏者ではない。位が違う。バイオリンの始まりの音とピアノの音が一度もかぶらない。まさに、芸術作品を二人で作っているようだ。バイオリニスト(上野清輝氏)も自らの演奏に酔いしれている。その姿がまた美しい。平田郷陽にお見せしたい。影となり主役を演じる大氏は6割で鍵盤を叩きつつ、奏者への思いは120%だ。それも一度も自己主張することなく…。ラストの「チゴイネルワイゼン」の余韻さめやらずホールを後にした。何故か春夏秋冬、日本の四季が浮かんでくる。室外に出ると秋の空気も美味しい。ふと氏の演奏は「おーい」と呼びかけたら必ずその音程で「おーい」帰ってくる、まさに「やまびこ」のようだ。もちろん、「やまびこ」のようにゆったりとしたリズムではない。零点零一秒の違いで音色を奏で、名サポート役を演じる。観客と演奏者の息も合ってくる。語らずして語る…見事な旋律。ピアノによりバイオリンが生き、心に木魂(こだま)してくる。後でパンフを見たら、上野清輝氏も毛並みが違っていた。 急ぎ店に戻り、日常業務に励んだが、夜はまた、「熊本むさしクラブ・熊本ヤングクラブ」主催のの「10月合同ジャズ例会」に出かけた。ジャズの音楽も心地よい。着こんだ浴衣を襦袢変わりにし、単衣のみさやま紬に漆黒の紗羽織という、略礼装で一日を過ごした。全て天然素材を見につけているからだろうか、着物を着ていると眼に耳に…五感も歓喜してくる。アームストロングの「この素晴らしき世界」が、今日のラストソングとなった。