この秋初めて、墨色千筋のウールに袖を通した。秋深くなるにつれ、木綿~正絹の単衣~ウール単衣という順番だ。やっと気候も涼しくなり、袷代わりにウールを着る季節が訪れた。気候は良くなってきたが、顔に紅葉を散らす出来事があった。 
それというのも、自他共に認める…超・右脳人間にとって、和の國(有限会社いばらき)の会社としての代表でありながら、数字(計数管理)ほど苦手な物はない。「一所懸命前を向いて頑張っていれば、結果は後からついてくる」と常々思っているが、融資を行っている銀行さんにとって、それでは茶は沸かぬらしい。当然と言えば当然だ。
和の國は、あの「リーマンショック」から這い上がり、今年7月には、雀の涙ほどであるが黒字決算となった。何よりもお客様に支えてもらっているのが一番だが、銀行の融資なしに存続はあり得ない。恥ずかしながら、「~全国的に業況の悪化している業種に属する中小企業者を支援するための措置~セーフティネット保障制度」のおかげでなんとか首をつないでいるのが現状だ。
その件でまた、銀行や保証協会への提出書類が必要となってくる。着物姿にかこつけて、今まで銀行など苦手にしていたが、そんなことは言ってられない。男として、いや和の國代表としての登竜門。ここは正面突破だ。 今後のビジョンなどはしっかり伝え、書き記した。山ほどある。また、税理士の岩下卓司先生にもお世話になり「3ケ年の資金繰り表」なども作成した。しかし今後の予想を数字で表す…「3ヶ年損益計画書」のことで銀行さんより指摘を受けた。なるほどだ。「論より証拠」というのは、こういった時に使うのだろうか。当たっているので、何の言い訳も出来ない。喉もカラカラになってくる。よくも今まで経営者としてやれたもんだ。自分が情けなく…小さくなっていく。  私の中で銀行さんに対し、いつの間にか「良いときは良いけど、悪くなったらつめたいもの」のイメージが定着している。ガチガチの固定概念だ。しかし、今お世話になっている熊本ファミリー銀行本店営業部の永友鉄也氏は、私の固定概念を完全に覆してくれた。私の目線に合わせ、懇切丁寧にお話をしてくださる。まるで、親が子どもに諭すように、ゆっくりと、分かりやすく。何度も何度も繰り返し。私はその真剣さに「何でそんなに一所懸命に、お話しなさるのですか?」と尋ねた。すると、意外な言葉が返ってきた。 「私たちは一般のお客様からお金を預けてもらい、その預けて頂いたお金をお貸ししているのです。そこに発生しているマージンが私達のお給料となっているのです。だから、三方みんなが良くならなければならないのです。これは、金額の大小にかかわらず、みんなそうです。実際私が、『3ケ年の資金繰り表』を見て『3ヶ年損益計画書』を作ろうと思えば作れます。しかし、それでは今までと一緒で、茨木さんの為にならんのです。売り上げが前年同比で利益をだすなら、経費をすべて洗い出し、無駄はないか、削れるところはないか、一つずつ奥さんと一緒にチェックしていってください。そしてそれを今後照らし合わせながら、利益を出していくのです。利益を出さない会社は、社会貢献もできません。」 「三方良し」は、和の國理念だ。その価値観に納得。そして、こう続いた。「ずっと着物を着続け、『着物を普及して熊本を文化の街にしたい。そして日本を良くしたい』などと大志をもってらっしゃる茨木さんが一番やったらいけないのは、『いばらき』という会社が潰れることです。どんなに夢や希望があっても、潰れたらどうもならんのです。だからその為にも、具体的な数字目標が必要なのです。」眼がしらを押さえた。体がどんどん熱くなっていく。これだけ真剣に考えてもらってる行員さんがいることに…。 自分の為、和の國の為もさることながら、私を信じ真剣にお話し下さった永友鉄也氏の御恩に報いるためにも、「絶対、数字に強くなる」と強く心に誓った。平成22年10月29日、「立身の感動」と命名。 実はもう一つ、夜に和の國にて双璧の感動があった。ふと、京都御所の「右近の橘、左近の桜」が思い浮かんだ。「立身の感動」に対し、こちらは「共生の感動」と命名した。