和の國ブログをご覧の皆さま、あけましておめでとうございます。
「熊本ゆかりの染織作家展」実行委員の安達絵里子です。

例年ならばこの時期には「熊本ゆかりの染織作家展」を開催しているのですが、今年は作家の皆さま方に作品を作りためて来年に備えていただくということで、お休みをしております。
年頭に際しまして、今年も和の國ブログをご覧になる皆さまのご健康とご活躍を心よりお祈り申し上げます。
それとともに、皆さまのきものライフがより一層豊かになりますよう、熊本ゆかりの染織作家作品を当ブログにてご紹介してゆきたく思いますので、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、今回は昨年秋に開催されました吉田美保子さんの個展から、近作をご紹介いたします。

吉田さんが昨年の個展でテーマに選んだのは「三角」。
どの作品にも、織りで表現された、とんがり三角が躍動しています。

3点とも八寸帯で、タイトルは上から
「小さくてハッピーな三角たち ショートバーバージョン」
「三角グラフティ」
「おもちゃのチャチャチャ・いろいろ」

三角の形は新鮮なようで、文様史でも特に古くさかのぼれる、太古から親しまれる文様です。
熊本に住む私たちには、山鹿にあるチブサン古墳でもおなじみ。
なんとも原始的で力強い三角形は、ひと目見たら忘れられない強烈な印象があります。

三角のとんがりには、古来厄除けの意味を見出したらしく、三角をつなげた「うろこ模様」は、厄年に身に着けると良いとされます。
私も厄年にうろこ模様の財布をプレゼントされたことがあります。

古くて新しい三角……
吉田さんの帯を見ていますと、「三角」の未来を見るようです。

そもそも織りの世界は、経糸と緯糸が交差して平面を成すもの。
三角を形作る斜め線は、従来の経緯絣では非常に高度な技術を要します。

吉田さんの「三角」は、彼女が得意とするブラッシング・カラーズ(摺り込み絣)の手法で表現されています。
従来の経絣が糸の段階で色を染め分けるのに対し、ブラッシング・カラーズは織機に経糸がかかった状態で色を摺り込んでいく、新しい技法。
新しいからこそ従来にない味を引き出すことにチャレンジした、アートの先端をゆく作品群です。

その味わいが特に発揮されているのが写真中央にある「三角グラフティ」。
ブラッシング・カラーズの刷毛目による、オイルパステルのような、クレヨンのようなタッチが新鮮です。

こちらは下段にありました「おもちゃのチャチャチャ・いろいろ」の部分アップです。
「おもちゃのチャチャチャ」シリーズは、今回特に力を入れたもののひとつで、楽しい音が聴こえてきそうな境地を目指したそうです。

ビタミンカラーで音符のように織り表された、三角に四角や円が楽しそうに共鳴しています。
五線譜のような緯線は綾織りで、地の平織から浮き立つようにアクセントづけられています。
締めるだけで元気がもらえそうなパワーあふれる帯です。

ほっこりしたぬくもりと、しなやかな地風を兼ね備えた織り味も魅力。
使用された糸にも注目してみましょう。

緯糸の地の部分には、国産のキビソ糸(蚕が繭を作るときに吐き出す最初の糸。素朴な風合いが特徴)を少々精練して、少しだけ柔らかくしたものと、太目の玉糸を交互に入れています。
玉糸は、絹らしいツヤツヤした感じを出す役割をはたします。

黄、橙、金、青、緑の緯線のうち、黄、青、緑は絹糸で、金は金糸なのですが、橙色はなんと麻です。
異種の糸を入れこむことで、ハッとする感じを出しているのだそうです。
色や模様だけでなく、糸同士のハーモニーも堪能できるのは、糸にこだわる織物作家作品ならではの高尚な楽しみといえるでしょう。

さて、どんなきものに合わせましょうか。
もちろん無地感覚の紬で帯を主役にしてもいいのですが、縞や格子(というよりストライプやチェック)のきもので、帯と対話するようにはつらつと着こなしても楽しそうです。
どうぞご自身のおきものを思い浮かべながら、仮想コーディネイトをお楽しみくださいませ。

もちろん手に取ってご覧いただくこともできます。
すでに売れてしまっているものは、吉田さんがバージョンアップして再度制作してくださるそうなので、ご遠慮なく和の國までお問い合わせくださいませ。

今回もどうもありがとうございました。
次は3月にレポートいたします。

熊本ゆかりの染織作家展実行委員 安達絵里子