和の國ブログをご覧の皆さま、こんにちは。
「熊本ゆかりの染織作家展」実行委員の安達絵里子です。
風薫る5月。
もはや初夏を思わせる陽気の日もあり、袷のおしゃれを悔いなくしておかねばと焦る気持ちも感じるこの頃です。
まずは、熊本ゆかりの染織作家の方にまつわるうれしいお知らせがあります。
堀絹子さんが現在開催中の第88回国展に、溝口あけみさんが第49回西部工芸展に入選されました!
国展は、東京・六本木にある国立新美術館にて12日(月)まで展覧されています。
期間中に東京へいらっしゃる方は、ぜひ我らが堀絹子さんの新作をご覧くださいませ。
地元熊本でゴールデンウィークを過ごされる方は、どうぞ和の國へ!
熊本ゆかりの染織作家の方々の作品は、会期が終わると作家の方にご返却しておりますが、一部和の國でお預かりしているものもあります。
ご遠慮なくお問い合わせください。
さて、今月も引き続き「第4回熊本ゆかりの染織作家展」に出品された秀作をご紹介いたしましょう。
今月は「ヌーベル・クラシック」(新古典)な作風が魅力の岡村美和さんの型染帯です。
ひと目見て、「今の季節にぴったりの可愛い帯!」です。
帯として万能の力を発揮してくれます。
理由その1 紬地であること
紬地特有の節がある地風のため、締めやすく緩みにくい――これは初心者だけではなくハードユーザーにも実はうれしい要素です。
理由その2 主にクリーム地&白地であること
20年以上も前の話になりますが、かつて私に着付けを教えてくれた方が言いました。
「色合わせに困ったらクリーム色。この色なら合わないことはなく、万能だから」
この帯は、菱つなぎのところにクリーム色を入れていて、全体にクリーム地のように見せています。
樹木や花唐草の柄部分は白で、地色に風穴を開け、すっきり感と奥行きを出すのに成功しています。
こうなると、合わせるきものは、黒、茶、紺、薄茶、赤みのある色、白地など、どんな色でもござれ、です。
でも本作のクリーム地は、よく見ると、白地にちょんちょんとクリーム色が入れてあります。
そんな手仕事の妙が、この帯の魅力で、均一でない味わいのある色は見ていて心がなごみます。
理由その3 厳密に季節を問わない新古典柄であること
きものを着る喜びのひとつに、季節感を表現することがあります。
今の季節なら大ぶりな藤の花なんか描かれた染め帯がカッコいいでしょう。
そんなおしゃれも、もちろんステキです。
でも、1年12ヶ月分も揃えるのは並大抵ではないし、12本あっても足りないでしょう。
そこで活躍するのが万能帯です。
無地調子や縞格子、幾何学模様や抽象柄のほか、更紗模様がその代表格。
本作は絵更紗の模様なので、基本的に季節を問いません。
ただ、青緑色が印象的なので、春向きと思えます。
でも樹木には実がなっているので、秋でもいいかも。
つまりは、着る人の見立てによって、帯締めや帯あげの色を季節の色にすれば、季節の装いになるということです。
私がきものって面白い!と思うのは、そういうところにあります。
ある意味とてもファジーで、着る人の思いによって、いかようにでも工夫できる余地があるのです。
そこに知恵を振り絞って、あれこれ考える……きもの好きにとっては至福のひとときではないでしょうか。
最後に、私がこの帯の最大の魅力と思うものについてお話させていただきます。
それは最初に書きました「ヌーベル・クラシック」です。
この帯のもっとも印象的な文様は樹木です。
樹木そのものは日本の文様としては珍しいように思われますが、世界には「生命の樹」といわれる立木模様が更紗や絨毯、キリムなどに多様に表現されています。
樹木はすくすくと空に向かって伸び、葉を茂らせて影を落として憩いの場を作ります。
また花を咲かせた後には果実が実って、命のリレーを行います。
吉祥性の高い樹木文様でありながら、この帯における樹木の可愛らしいこと。
これこそが岡村作品の魅力です。
古き良きものに、作家の美意識が加わって新たな魅力が創作されています。
まさに温故知新といえましょう。
そして、「岡村さんカラー」とよびたい青と緑の色調。
キュートで新鮮な色合いは、私のハートをわしづかみしています。
いや、もう少し冷静に書きましょう。
地味すぎず、派手すぎず、現代感覚にマッチする洗練された色彩美とでもいいましょうか。
合わせるきものは、正礼装でない、おしゃれ着一般。
私の手持ちなら、うーん、そうですねえ。
濃紺地に共薄色で細かい柄が染められた、遠目には無地のようにも見える一越縮緬地の小紋に合わせたいかなあ。
藍濃淡の縞にローズ色の細縞も入った唐桟のきものにも合いそう……。
結城や大島紬も文句なくいけますね。
どうぞ皆さまも、タンスのきものを思い出してお楽しみくださいませ!
今月も気合いが入りすぎて長くなりましたが、お付き合いくださいまして、ありがとうございました。